二:魔術師は語る i

 夢を見ていた。僕がまだ故郷にあったころ、父も健在であったころの夢である。
 父はけっして名君ではなかったが、国をいたずらに荒らすこともなかった。そんな父の血を引く僕の同胞は、さながら気弱が服を着て歩いているような有様だった。
 対する僕は喧伝とは真逆に、ドレスの裾をたくし上げ、中庭を走り回って遊ぶような子どもであった。花々をわたる蝶たち、先生の魔術を真似て壁に描き付けた文様、父の獣が手ずから作ってくれた鳥呼笛――思い出せば懐かしいばかりの、僕の遊び場。そこで遊ぶことを咎められた記憶が少ないのは、僕が王位を継がない王女として、良くも悪くも放任されていたせいなのだろうと今ならわかる。
 ちなみにその裏返しとして、珍しく咎める性質のひとは僕に対して容赦がなかった。
 たとえば王宮勤めであったエクリールの父君などは、僕の首根っこを掴んだりするぐらいのことを、わりあい平気でやっていた記憶がある。そうして僕を庭木だの壁だのから引っ剥がして、宙吊りのまま一喝をくれるのだ。
 それを目撃したきょうだいは驚くほどよく泣いて、ずいぶん困ったのを覚えている。
 彼――リュカは一事が万事そんな塩梅であったから、世継ぎとして避けては通れない儀礼さえ嫌がってよく泣いていた。仕方なくそれを代行してやれたのは、僕らがひとつの胎に生まれたきょうだいであったからこそ。
 きょうだいの服をまとった僕を、誰もが王女だと見抜くことはできなかった。結果として僕の同胞は気弱なまま育ち、僕の行為のひとつひとつに、悲鳴とも泣き声ともつかない声を上げていたわけだ。
 それは僕らが共有する秘密が暴かれる前の、短い時間のことでもあったけれど。