「して、ルカよ」
東の空にようやく月が見えたころ、クロイツはいつもの調子でわたしを呼んだ。
星を数えていた目を瞬かせ、わたしはそっと彼のほうを見る。
「おまえは王になるべきだ」
なぜ、と彼は言わない。だからわたしも、なぜ、とは問わない。
かわりに口の端を持ち上げて、困ったような笑みを象る。対してクロイツはそのましろの手で、軽くわたしを手招いた。
応じて身を屈めた刹那、襟首を掴んで引かれる。
――吐息がかかるほど近くで見れば、彼の瞳は思ったとおりの色をしていた。これと同じ色もまた、宝石の女王の持ち合わせにはあるまい。
そこに映るわたしの顔は、なぜだか泣き出しそうな様相に見えた。ひどい顔だと思ってしまったのも、なにもわたしの錯覚ではないはずだ。
そしてさらに言うのであれば、金の輝きを横切った黒も、同じく。
わたしからなにか声を上げる前に、クロイツはひとつ鼻を鳴らした。そして、わたしの肩を押す。座しただけの姿勢を取り戻したわたしの顔を、彼はどんな顔だと思っただろう。
「おまえは王になれる。母親を王宮から追い出して、正しい国を作れる。間違いなく、この俺がそうしてやる」
目の奥がひどく痛かった。
「なにせ俺にはもう後がねぇんだ。その土壇場で俺にはおまえしかいねぇんだぜ、ルカ」
後がないと言うのなら、彼は一路王都を目指せばよいのだ。そうして王宮の門を敲き、わたしの弟を王位に就ければいい。
なのに彼は、わたしを唯一であると宣う。かくも残酷な言葉が、この世にあるだろうか。
「もしわたしがきちんと自分の獣を選べるなら、君のことだけは選ばなかった」
わたしにだって、選びたい選択肢があった。
それでもクロイツがわたししかいないと言うのなら、わたしにもまた彼しかいない。それ以外の選択肢は、もはや遥かな遠きに過ぎる。
「……わたしは君の王になるよ。次のことなんて知るもんか」
獣は嘘をつかないが、ヒトは嘘をつくものだ。だから、溢れてきた涙の理由は知らないことにする。久方ぶりに声を上げて泣くわたしの横で、今度はクロイツが星を眺めていた。